学会発表
第70回日本生化学会近畿支部例会
二重鎖DNA導入で誘導される細胞老化へのATRの関与
株式会社セプテム総研:相生章博
北海道科学大学薬学部:柏倉淳一
Applied and Developmental Research Directorate:今道友純
大阪工業大学 工学部 生命工学科:芦高恵美子
<発表内容の概要>
1961年にいわゆるHayflick limitが報告されて以来,細胞老化に関する研究で炎症性サイトカインであるIL-6やIL-8を含めた分泌現象であるSenescence-associated secretory phenotype (SASP),Senescence associated-β-galactosidase (SA-β-Gal),γ-H2AXなどの老化細胞マーカーが特定されてきた。昨年我々は正常ヒト表皮細胞 (NHEK)に90bpのdsDNAを導入することでIL-6およびIL-8の産生,SA-β-Gal活性,γ-H2AX発現が亢進され,dsDNA導入によって細胞老化が誘導されることを報告した。今回,我々は,セリン/スレオニンキナーゼであるataxia telangiectasia and Rad3-related (ATR)およびataxia telangiectasia mutated (ATM)のdsDNA誘導による細胞老化への関与を検討したので報告する。NHEKにdsDNAを導入することによって誘導されるIL-6およびIL-8のmRNA発現促進に対してATM阻害剤Ku55933は5および10μMで抑制効果を示さなかったのに対して同濃度のATR阻害剤AZ20はIL-6およびIL-8 mRNA発現を有意に抑制した。さらに,AZ20はdsDNA導入によって亢進されるSA-β-Gal活性およびγ-H2AX発現を有意に抑制した。以上の結果は,dsDNA導入による老化マーカーの発現にATRが関与していることを示唆している。老化細胞は細胞分裂が停止する特徴を持っているので,抗老化物質を探索するために必要な細胞数を得ることが難しいが,細胞分裂が盛んな継代数が少ない初代培養細胞にdsDNAを導入して老化モデル細胞を作成できることは抗老化物質の探索に寄与するとともに,ATRが標的酵素となることを今回の結果は示している。
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