2024年12月6日(金)~8日(日)に開催された「日本研究皮膚科学会第49回年次学術大会・総会」でセプテム総研のシニアテクニカルアドバイザー相生研究員が「ヒト角化細胞におけるdsDNAの導入はATRシグナル経路を介して細胞老化を誘導する」というテーマで研究発表をおこないました。

この内容は、2023年5月に開催された「国際研究皮膚科学会(ISID2023)」で発表した「二重鎖DNAは、培養皮膚細胞の老化を誘導する」の進捗となるものです。

研究の概略

細胞の分裂回数には限界があるという「ヘイフリック限界(Hayflick Limit)」が提唱されて以来、細胞の老化に関する研究を通して、老化した細胞に見られる特徴、いわゆる「老化細胞マーカー」が報告されてきました。しかし、細胞老化のメカニズムや生体の老化を結びつけるメカニズムには未だに不明な点が多く、世界中の研究者たちが老化の研究に携わっています。
セプテム総研でも以前より老化研究の取り組みを続けてきました。

老化研究のための
老化細胞づくり

加齢に伴って肌の表皮が薄くなることは、肌の老化の代表例です。この原因を探るために表皮細胞を使った細胞実験(in vitro実験)で、そのメカニズムを明らかにして抗老化物質を探索しようと考えました。

ヒトの正常表皮細胞を培養すると若い細胞は盛んに分裂しますが、老化し始めた細胞や老化した細胞は、細胞分裂のスピードが極端に低下します。その一方で老化した細胞は、若い細胞では観察できない老化細胞マーカーが観察できるようになります。培養した老化細胞からは研究に十分な細胞数(サンプル)を得ることが難しいため、細胞分裂が盛んな若い細胞を老化細胞に誘導できないか?と考えました。一般的な方法では、過酸化水素で細胞に酸化ストレスを与えると老化が誘導されると報告されていますが、酸化ストレスはさまざまな反応を引き起こすため、どんなメカニズムが老化を招いているのか明らかにするには時間がかかります。論文を検索したところ、「老化した細胞では核からDNAが漏れ出す」、「マウスの胚線維芽細胞で二重鎖DNA(dsDNA)が老化マーカーとなる」という論文が見つかりました。そこから、「dsDNAを細胞に入れたらどうだろう?」という実験が始まったのです。

正常な細胞と老化した細胞の比較イメージ

〈イメージ〉

詳しい研修内容については「セプテム総研の活動」もご覧ください

最新の学会発表内容の報告

はたして老化細胞モデルは老化を再現できているのか? 今回の実験では、新しく3つの証明をおこないました。

老化細胞
の証明
1

老化細胞マーカー
「βガラクトシダーゼ」の出現を確認

若い表皮細胞に特殊な試薬を使ってdsDNAを入れると、老化細胞マーカーのβガラクトシダーゼが増加しているのがわかりました。

dsDNAを導入するとβガラクトシダーゼ(青緑色)の検出が確認された

老化細胞
の証明
2

「炎症性サイトカイン」の増加を確認

実際に老化した細胞からはIL-1α、IL-6、IL-8、TNF-αなどの炎症性サイトカイン※が若い細胞に比べて多く分泌されていることがわかっています。無操作の細胞と比較して、dsDNAを導入した細胞ではIL-1α、IL-6、IL-8、TNF-αの産生が有意に増加していることがわかりました。

dsDNAを導入すると炎症性サイトカインの増加が確認された(無操作のときの値を1とした相対値で示した)

細菌やウイルスが体内に入ってきたときに情報を伝達し、炎症反応を促進させる働きをするたんぱく質を、炎症性サイトカインと呼びます。カラダを守るための仕組みですが、炎症性サイトカインがずっと分泌し続けると、間接リウマチや動脈硬化など、さまざまな病気の原因となります。

老化細胞
の証明
3

「Ki67」の減少を
確認

Ki67は分裂している細胞で検出されるたんぱく質です。老化した細胞は分裂が停止します。そこで無操作の細胞とdsDNAを導入した細胞でKi67の発現を比較しました。また、撮影されたKi67発現細胞数(赤い点)を細胞総数(青い点)で割って割合を表したところ、分裂している細胞が著しく減少していることが明らかになりました。

Ki67(赤い点)の著しい減少が確認できた

その他の老化細胞マーカーの検討からもdsDNAが細胞老化を誘導していることが明らかになったので、そのメカニズムを検討しました。その結果、細胞内のATRという酵素がこのdsDNAによって誘導される老化に関与していることを明らかにしました。

現在、この老化細胞モデルを使用して抗老化物質の研究を進めているところです。

日本研究皮膚科学会とは?

一般社団法人日本研究皮膚科学会は、皮膚の健康や皮膚疾患の診断・治療の向上を目的として設立された学会です。1976年に発足した皮膚科研究同好会を基に、1981年7月に設立されました。年12回の皮膚科学研究雑誌発行のほか、毎年1回、学術講演や皮膚科学に関わる最新の研究発表がおこなわれ、国内の研究者のみならず、海外からの参加者も加わり、活発な議論が交わされます。

この研究はアメリカ国立衛生研究所 今道友純博士、北海道科学大薬学部 柏倉淳一教授、大阪工業大学工学部 芦高恵美子教授との共同研究です。また、今回の一連の発表は、今道博士によって、アメリカ国立研究所のWEBサイトでも発表されています。

  • 2024年

    A. Aioi, T. Imamichi, J. Kashiwakura, E. Ashitaka. Transfection of dsDNA induces cell senescence via ATR signaling pathway in human keratinocytes. 49th Conference of Japanese Society for Investigative Dermatology, Abst: P04-15/O04-24, Dec.6-8, 2024, Nagoya, Japan

  • 2023年

    A .Aioi, T. Imamichi, and J.-I. Kashiwakura. The transfection of double-stranded DNA induces cell senescence in cultured human keratinocytes. First International Societies for Investigative Dermatology Meeting; May 10-13, 2023 Tokyo, Japan.