これまでのあらすじ

学生時代に学んだ医学と薬学の知識を携え、化粧品業界へ挑戦した森川博士。
異業種への転身でしたが、「国際標準パッチテスト法の開発」「SPF概念の普及」など、
数々の大きな功績を遺しました。
そして、1995年にセプテムプロダクツの山下社長と出会ったのです。
〈後編〉では森川博士について紹介しながら、セプテム商品のルーツを辿ります。
「本気のものをつくってください!」
目元が涼しく、若々しくて明るいその男性は、
化粧品業界の権威ともいえる森川博士にそのように言い放ち、周りをざわつかせたそう。
取引先からの紹介でやってきたその男性――セプテムプロダクツの山下社長との出会いは
こんなお願いから始まったのでした。
「人の肌はひとり一人違うのに、全員がキレイになると広告で錯覚させている」
「化粧品は『使ってみて良かった』という結果で売るべきではないか」
「パッケージや広告宣伝費にコストをかけるのもおかしいのでは」……など、
長年化粧品業界で生きてきた森川博士には耳の痛い話でしたが、
それがむしろ痛快かつ「その通りだ!」と深く同感し、
セプテムの化粧品開発を始めるきっかけとなりました。
当時を思い返すと、山下社長は冷や汗をかくことになるのですが、
森川博士の受け取り方は違いました。不思議と生意気には聞こえなかったのです。
「この若い男は、業界のどこもやっていないことを実現できると本気で信じているようだ」
「だったら、私がつくるものがお役に立てればうれしい。
それは研究者としての本望だろう」と森川博士は思ったのです。
ある日、山荘の庭で樹木の枝を払っていたときのこと。その葉を見て、森川博士はふと思います。
――「植物は、自分から音を出すでもなく、光を放つわけでもない。そして身動きひとつしない。
ただ静かに太陽の光を受けているだけなのに、とてつもなく大きな仕事をしているものだな」と。
植物は光合成をおこない、空気中に酸素を放出し、私たち人間に新鮮な空気として恩恵を与えてくれます。
また光合成により、根や葉など自らの体をつくっています。
さらにそれぞれの植物は、さまざまな化学物質を構成しており、それを葉や樹皮に蓄え、活用しています。
そこに目を付けた人間が、葉や樹皮あるいは根を取って、活用しているのです。
現在、薬品といわれるもののほとんどは植物が元になっています。
人間が太陽の光を有害と決めつけているのに対して、植物はなんと上手に太陽のエネルギーを利用しているのでしょう。
人間の知恵が及ばない力に改めて感心させられた瞬間でした。
そのとき、森川博士は化粧品開発にはこの不思議で偉大な力を持つ植物の助けを借りようと考えたのです。
1996.7.1「エルテと私」より
「植物には知恵がある」と森川博士は言います。例えばふきのとうは、芽が出てくるとそのおいしさから人間や鳥に狙われてしまいます。
そのため、食べられてしまわないように、芽吹く時期には毒を有しているのです。成長し、食べられる心配がなくなるころには、もう毒を持っていません。
森川博士はこれについて「自己防衛のために、仕方なく発がん性物質を蓄えているんだろう」と考えていました。
植物を扱うときには、そこを見極めることがとても重要で、気を遣う必要があります。
植物の安全性の研究については、学生時代に学んだ漢方や生薬の知識に加え、ハーバード大学の皮膚科で学んだ植物起因性皮膚炎(フィトデルマトロジー)が大変役立ったといいます。
まさに、森川博士のこれまでの知識がセプテムの化粧品開発にいかんなく発揮されることとなったのです。
森川博士が初めて開発したセプテムの化粧品、「エルテ」。現行のエルテオシリーズの前身となるスキンケアシリーズです。
「エルテ」という名前は「ムクゲ」という花を意味しているのですが、なぜこの名前にしたのでしょうか?
森川博士の植物への興味は、庭の隅にあったムクゲの木の思い出から始まっています。ムクゲの木は植物への興味の原点でもあり、森川博士自身の原点でもあるのです。
さらに、たまたま見た誕生花の本で、山下社長の誕生花(2月22日)がムクゲだと知り、衝撃が走りました。「セプテムのエルテ、ムクゲというものは、山下社長とも何かしらの縁があるのかなと思います」と森川博士は語っています。
エルテに配合されている和漢植物エキスには、単一ではなく、複数で配合すると良い効果をもたらすものがあります。この特徴を上手に利用することで、少量で大きな力を発揮することができるのです。
足りないものを補ったり足したりするのではなく、もともと人間が持つ力を高める――この考え方のもと、日本と中国の最古の薬学書と医学書を参考に120種類の薬草を選出し、「求める薬理作用があるもの」「安全性の高いもの」「組み合わせたときに相乗効果が得られるもの」このすべての条件を満たした18種類の和漢植物の力を借りて、エルテが誕生しました。
安全を徹底的に追求した基材に、植物の持つ力を融合したエルテ。
それは、一研究者として、そして植物に魅了され、植物から多くを学び取った森川博士の“人生の結晶”といえるのかもしれません。
「美しくなるための条件は、心の持ち方であり、逆に美容の大敵も心である」この言葉を、森川博士は戒めの言葉としていたそうです。
化粧品はときとして、心も癒してくれる――そのような考えに至った背景には、化粧品がとりもつ2つの出会いがありました。
ひとつは、祖母を亡くした女性との出会いです。女性がエルテを89歳の祖母へプレゼントしたところ、元来、化粧品にはあまり興味がなかったのにもかかわらず、大変気に入ってくれたのだとか。
生前には、「素晴らしい化粧品に出合えたことがうれしい」と手を合わせて言われたこともあったそう。
女性は、そのことを伝えに遠方よりわざわざ森川博士を訪ねてきたのでした。
2つめは、生まれつき体に障がいを背負った28歳の女性との出会いです。
母親の押す車椅子に乗っていたその女性は、手足が自由にならないばかりか、耳が聞こえず、言葉を話すことができないというのです。
うつろな眼差しも印象的でしたが、それ以上に森川博士の目に留まったのはひどく乾燥した頬でした。
スキンローションをコットンに含ませて塗ってあげると、硬かった表情が変わったように感じたため、そのまま容器ごと渡してあげました。
そして翌年、再会した女性の母親は言います。「あれ以来、スキンローションを片時も離さないのです」女性に声をかけようと近寄ると、身を乗り出して森川博士にしがみつき、いつまでも離れようとしませんでした。
女性の母親は驚き、「この子は、今とてもうれしいのです。こんな娘の姿を見るのは初めてです」と、目をうるませていたのでした。
この社会の片隅で、人知れず
体の不調や苦しみと
戦っていらっしゃる方に、
私の化粧品がお役に立てたら、
なんとうれしいことでしょう。
この人々との出会いを
忘れることなく、心の通った
化粧品づくりをしよう、
と心に誓いました。
そしてエルテは発売から10年後、セプテムプロダクツの創業10周年に合わせてリニューアル。
現在の「ALTHAEAOIO(エルテオ)」という名前で医薬部外品として生まれ変わりました。
幼いころ、父親から「OIO(おいお)」という愛称で呼ばれていたという森川博士。医師である父親には、化粧水をつくって配るという趣味があり、その容器には、いつも「OIO」というラベルを貼っていたのだそう。
「エルテオ」は、そんな思い入れ深い「OIO (おいお)」とムクゲを意味する「ALTHAEA(エルテ)」を組み合わせて命名されました。
その後さらに2020年のリニューアルを経て、現在は和漢植物エキス(保湿作用)25種配合となったエルテオシリーズは、創業から変わらずセプテムの主力商品であり続けています。
“世に求められる研究を”という森川博士の想いは途切れることなく、現在のセプテム総研の研究開発にも受け継がれているのです。